デザインTips

赤+白のコントラスト比は低いのに、なぜ道路標識で使われるのか?


一般に、「視認性の高い配色を選ぶなら、コントラスト比が高い方がいい」と考えられています。実際、ウェブアクセシビリティのガイドラインでも、色のコントラスト比は重要な評価指標として扱われています。

では、次の配色を比べてみましょう。

文字色:赤|背景色:黒|コントラスト比:5.25
文字色:赤|背景色:白|コントラスト比:4.00

数値だけを見れば、赤+黒の方が高コントラストです。しかし実際の道路標識では、赤+白が採用されることが圧倒的に多い。

この「逆転現象」はなぜ起きているのでしょうか?

暗所での「赤」の落とし穴

この理由のひとつは、赤の色特性にあります。赤は明るい場所では鮮やかに見えるものの、光量が落ちると極端に彩度と明度が低下し、くすんで見える傾向があります。

夜間や曇りの日、霧の中では、赤は暗く濁って見えるため、背景が黒の場合、赤と黒が視覚的にほぼ同化してしまうのです。これは、赤が黒に近づくというより、赤が「灰色っぽく沈んで見える」ことに起因します。

JAFの実験によれば、夜間では「赤や緑が黒と見分けがつかない」ことが実際に観察されています。

“白や反射材を身に着けた服装は、ロービームでも遠くから発見されやすい結果となりました。また、意外だったのは、昼間は目立ちやすい赤や緑といった色が夜間になると黒や青とあまり変わらないといった点です。”
夜の外出、その色の服装で大丈夫? 夜間、歩行者の服装の色や反射材の有無によるドライバーの視認性を検証|一般社団法人 日本自動車連盟 (JAF)

白背景は「視認性のベースライン」

背景に白を使えばどうでしょうか?

白はどのような照明条件でも高い明度と反射率を維持します。つまり、暗所でも目立つ背景になるのです。赤が多少くすんでも、白との明度差で輪郭が残り、視認性が担保される。

また、道路標識には反射シートが使われることが多く、白地はヘッドライトをよく反射するため、夜間でも赤文字の存在が浮かび上がるという利点もあります。

赤+白と赤+黒という配色を比較する際、どちらが視認性に優れているかを直感的に理解する方法のひとつが、両者をグレースケールに変換して見ることです。

グレースケールに変換すると、色相や彩度の情報は失われ、明度の差(=明暗の差)だけが残ります。このとき、赤は中程度の明度(およそ #ff0000 の場合で「暗めの灰色」)に変換されます。

赤+白の配色をグレースケール化すると、赤文字は暗いグレー、背景の白は明るいグレー(ほぼ白)となり、明度差が比較的はっきり残るため文字が読みやすくなります。

一方、赤+黒では、赤文字も黒背景もどちらも暗いグレー〜黒に近い明度となり、文字と背景が同化して読みにくくなる傾向があります。

色覚多様性への配慮

色覚に多様性があることも忘れてはなりません。とくに赤に関する色覚異常(1型色覚など)を持つ人にとっては、赤がそもそも暗く見える傾向があります。

赤+黒のように、どちらも暗くなる組み合わせでは、輪郭も内容も読み取りにくくなります。一方、赤+白であれば、赤が多少見えにくくても白との明度差で構造は把握できるため、情報伝達の観点からも合理的です。

なぜ数値上「負けている」赤+白が選ばれるのか?

ここで重要なのは、数値上のコントラスト比と「見えるかどうか」は同一ではないという点です。数値はあくまで、理想的な条件下(sRGB・標準光源)の比較指標であり、実環境下の視認性を完全には反映していません。

実際の配色設計では、以下のような使用環境を前提とした調整が必要です:

  • 天候・時間帯の変化(晴天・曇天・夜間)
  • 視認距離と速度(車両運転時)
  • 反射素材や照明との相互作用
  • 色覚多様性(誰にでも見えるか)

こうした現実条件においては、赤+白の配色が最も安定して視認性を確保できる設計となるのです。

視認性は「数値」より「状況適応」

赤+黒の方がコントラスト比が高いという事実は確かにあります。しかし、視認性=コントラスト比とは限りません。実使用環境においてどう見えるか?を重視すれば、赤+白という選択は極めて論理的なのです。

デザインの現場では、数値を超えた「状況適応型の視認性設計」が求められます。それこそが、安全と情報伝達を支えるデザインの力なのです。