京都産業大学ファブスペース リニューアル記念シンポジウム「ファブがつなぐ地域・世界・大学」
京都産業大学情報理工学部の「ファブスペース」がリニューアルされ、2025年10月8日(水)に、その記念としてシンポジウムが開催された。 2018年に始動したファブスペースは、学部を問わず学生が自由に利用できる“開かれたものづくりの拠点”として運営されてきた。今回のリニューアルでは、展示やワークショップも可能な複合的スペースとして拡張された。
ファブスペースの歩みと理念
発表を行った伊藤慎一郎氏(京都産業大学)は、これまでの歩みを振り返りながら、ファブスペースの4つのコンセプトを紹介した。
- Read&Write:学び、発信する
- Open:誰にでも開かれている
- Create:自分でつくる
- Link:人・学問・地域を結ぶ
ファブスペースの愛称「Re:>Direction」と“>”のマークには「方向を生み出す」意味が込められている。 また、2019年からはメイカーフェアへの出展や、ブータン王立大学、ガジャマダ大学、南スイス応用科学芸術大学との国際連携も進めている。

ファブスペースの変遷と成熟期の意味
越智岳人氏(FabScene/元fabcross創設者)
メイカームーブメントの初期から関わってきた越智氏は、ファブスペースの変化を次の3期に整理した。
- 黎明期(2011〜2016):個人・中小企業を中心に盛り上がり、採算性に課題。
- 成長期(2017〜2022):大企業が参入し、スタートアップ支援や行政政策と結びつく。
- 成熟期(2023〜):機材の低価格化で“作るだけの場”から、“学びと関係を生み出す場”へ。
越智氏は、ファブスペースが「ハードからソフトへ」「目的から手段へ」と移行したと語る。
作ること自体が目的ではなく、作る過程での関わりや発見を支える仕組みが大切になってきた
そして最後に、次のような言葉で学生にメッセージを送った。
作りたいものがなくてもいい。
大事なのは、ここで何ができるかを知ること。
それを知っていれば、必要なときに誰に頼めばいいか、どのくらいの時間とコストがかかるかを想像できる。それが“ものづくりに貢献する力”になる。
技術を使うことだけでなく、「知ること」「語ること」「つなぐこと」もファブスペースの重要な機能だと示唆していた。

場としてのファブカフェが生み出す接点
木下浩佑氏(ロフトワーク/FabCafe Kyoto)
ファブカフェ京都の木下氏は、「ここで作れます」ではなく「ここに集まって広げる」をテーマに、ファブの社会的価値を語った。
カフェという日常的な空間に加工機材を置くことで、来客が偶然に“つくること”へ触れる構造。素材や地域資源を起点に、企業やアーティストとの共創を進めている。
オープンスペースに加工機材があることで、関心が重なり、人が交わる。
その偶然が、ファブのいちばんの価値かもしれない。

失敗は宝箱
徳山倖我氏(Kyoto Makers Garage/合同会社TSUKUM代表)
京都産業大学卒業生の徳山氏は、学生時代のファブ体験を原点に、教育と地域連携の活動を展開している。
最初の授業で「たくさん失敗してください」と言われ、試行錯誤を繰り返した経験が転機だったという。
大きすぎるキャットタワーを作って失敗した。 でもその失敗が、自分にとっての宝箱だった。
ファブを通じて「Start small, move fast(小さく始めて早く動く)」という姿勢を学び、現在はメイカーズガレージを通して、地域の創造コミュニティを広げている。
パネルディスカッションより
学生の活用法とファブ施設の役割のこれからをテーマに議論が行われた。
木下:「大学は失敗しても大怪我しない環境。まず触ってみること。」
徳山:「知らないことは強み。知らないから動ける。」
越智:「“作りたいものがない”問題は気にしなくていい。知っていることが力になる。」
伊藤:「京都全体をキャンパスとして、自分の作品を社会に見せてみてほしい。」
京都という都市のコンパクトさ、大学間の距離の近さ、伝統産業と先端技術の共存など、地域的条件も議論の背景にあった。
ファブとは、「作る場所」ではなく、「世界と関わる方法」そのものである。
今回のシンポジウムで共有されたのは、ファブスペースの価値が「機材」ではなく「関係性」にあるという認識だった。作ることそのものよりも、作る過程で生まれる発見・会話・ネットワークが学びを深める京都産業大学のファブに引き続き注目したい。



