レポート|絵本学会ラウンドテーブル「子供の造形遊びと絵本」
2023年6月18日(日)、大阪大谷大学で開催された第26回絵本学会大会のラウンドテーブル「子供の造形遊びと絵本」で、絵本作家きたむらさとし氏が実施した、子供の造形遊びでどうやって興味関心を持たせるか、つまりどのように導入するのかというテーマで、氏の自作の紙芝居「ライオネルの新しい髪型(英語版)」を使ったワークショップがとても面白いものでした。
氏は、幼稚園や色々な施設で子供向けのワークショップをする時に、「さあ今日はみんなで絵を描こう」などといきなり言っても子供達は興味を持ってくれないので、いつも絵本を使って導入をしているそうです。
今回はその1例を紹介していただきました。
「ライオネルの新しい髪型」のあらずじ
ライオンのライオネルはロックバンドのリードボーカル。明日はいよいよコンサート当日。リハーサルも衣装もバッチリだけど、メンバーが「君の髪型が良くないよ」というので急いで床屋に行くことに。床屋を見つけて入ってみると、そこは全然人気がないみたいで、主人は毎日暇で絵を描いてばかり。「僕はロックスターの髪型なんてやったことないよ。でも今からいろんな髪型の絵を描いてあげるから、気に入ったのがあったら教えてよ!」と言う。
(紙芝居は顔ハメのような細工になっていて、いろんな髪型が描かれた絵の真ん中の穴からライオンの顔がのぞいている。)
ストレートのロングヘアーあり、アフロヘアーあり、三つ編みあり、どんどんめくっていくと、ライオネルは最後にある髪型が気に入って、そのヘアースタイルでコンサートは大成功。翌日床屋はその髪型にしたいと言うお客さんで大繁盛!めでたしめでたし、おしまい。
子供達に読み聞かせると、いつの間にかこのヘンテコな話に引き込まれていて「こんなのありえない!!」「そんな髪型はおかしい!」と大騒ぎになるそうで、そこで、子供たちに「じゃあ君たちもライオネルの髪型を考えて!」というと、もう我慢できなくなっていた子供たちはあっという間に思い思いの髪型を描くのだそうです。
もちろんこの場でも「皆さんもどうぞ」ということで、すっかり術中にハマったおじさんおばさんたちも、配られた紙の真ん中に穴を開け、みんなクレヨンを手に一斉に描き始めました。
きたむらさとし氏は「ぞうのエルマー」の日本語翻訳者としても知られていますが、自身の絵本もたくさん出版されています。長くイギリスを拠点に活動され、現在は神戸市外国語大学客員教授も務めておられます。
聖心女子大学の水島尚喜先生によると、平成の中頃から徐々に子供の創造的な力を引き出すための工夫として、指導要領でも導入について考えられるようになってきたそうです。
ありきたりの話ではなく、「え?その話なになに?」と興味を惹く仕掛けを毎回作るのは難しいと思いますが、導入ってほんとに大事だということを実感したワークショップでした。