彼向かふ──お米を比べて考える
ゼミに新しく入ったメンバーたちと、白米の食べ比べを行いました。
各自が1合ずつ持ち寄ったお米を、同じ型の炊飯器で炊き、食べながら感想を書き出していくというシンプルな試みです。
言葉を探す時間

ところが、実際に始めてみると、最初はなかなか言葉が出てきませんでした。「何を比べればいいのかわからない」「お米の味をどう表現すればよいのかわからない」という声も聞かれました。普段、お米を意識して食べ比べる機会はそれほど多くありません。
そこで、まずは口に入れた瞬間の印象に注目し、その後、噛むほどに広がる甘みや香り、食感の違いなどを意識してみることにしました。すると次第に、「こちらはあっさりしている」「香りが強い」「甘みが後から出てくる」など、それぞれの気づきが増えていきました。

最終的には、A・B・Cそれぞれのお米の特徴について、参加者全員が自分なりの言葉で語れるようになりました。同じ白米であっても、それぞれに異なる個性があることを実感できたように思います。
「考える」の語源
「考える」の語源の一つに「彼向かふ」という説があります。此処(ここ)と彼処(かしこ)を見比べ、「こちらはこうだが、あちらはどうだろう」と思い巡らせることを意味するというものです。
比較することで違いに気づき、その違いを手がかりに新しい視点を得る。考えるという行為は、何かを他のものと見比べることから始まるのかもしれません。
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも(阿倍仲麻呂)
阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)が、遠く離れた地で故郷を偲んで詠んだ和歌の一節。遠く離れた異国の空に昇る月を見て、奈良の春日山(御蓋山)に出ていた月と同じものだと望郷の思いを馳せた歌。
奈良文化財研究所
デザイン的な視点を育てる
デザインもまた、正解のない問いに向き合いながら、比較し、観察し、多様な視点から考え続ける営みです。
今回の白米の食べ比べは、単に味の違いを知るための体験ではありません。普段は見過ごしてしまうような差異に目を向け、それを言葉にし、他者と共有することで理解を深めていきます。そのプロセス自体が、デザインに必要な思考の訓練でもあります。
この体験が、これからの制作や研究において、物事を多角的に捉えるきっかけになれば幸いです。



